犬のきもち5

犬の嗅覚が鋭いことは言うまでもないが、ではどうして?と言われると「はて、、」となってしまう。聞かれたのが子供であれば「鼻が大きいから」なんて答えてくれるかもしれない。

十月のある日、知り合いの農園に葡萄の収穫の手伝いに行った時、船橋から来た親子に会った。農作業というのは結構きついけど、10時と3時には必ずお茶の時間をとってくれる。農園主がオーガニックを実践する大学教授ということもあるが、午前と午後の休憩が作業にとっていかに大事なことかを熟知していて、体を休めるのと同時に様々な情報交換の場でもあり、そのこともあってわざわざ遠方から多くの人々がこの農園に足を運ぶ。

たしか葡萄の天敵はカブトムシだというのが話題に上った時「昆虫の食道は脳の真ん中を貫いているので、彼らは樹液のような液体しか食べられないんだ。」って、動物行動学の日高敏隆氏の著書に書かれていたのを思い出してポロっと口に出してしまった。

生物の進化については興味があるが、動物それ自体にすごく興味があるのかと問われれば「否、それほどではありません。人との共通性には興味はありますが。」と答えてしまうであろう。

私が口を滑らせた次の瞬間に感受性の豊かな小学校の中学年の女子は「どうして?」と目を輝かせて顔を近づけてきた。驚いたのは、それと同時進行でスマフォのグーグル検索で昆虫の身体図を導き出していたことだ。

いやいや、この子の年頃の自分は糸電話で遊んでいたのに、と時代の流れを痛感したのと、下手なことは言えないよね、直ぐに裏をとられてしまうんだから、という思いが胸の中でシャッフルされていたが、興味を持ってもらえたことに嬉しくないはずはない。

「液体を食料にすることを選択したからだよ、それが生き残ることに有利に働いたから今こうしてカブトムシは存在してるんだ。」と答えたと記憶している。それ以上のことは説明できないのであるから確かなこと。

「へぇ、そうなんだ」と納得した後は次から次へと彼女の想像力は入道雲のように成長して、大人には想像もできないことを発して周囲に微笑みを提供した。

お母さんが「この子はここに来るのをとても楽しみにしているんです。」と満面の笑みで話していた。

犬の嗅覚の鋭いのと鼻の大きいのとカブトムシの関係は何よ、という話になるでしょう、関係はありません。話が脱線しただけです。

使うところが発達して感覚も鋭くなる、これが生物の進化の特徴である。と同時に疲れが溜まるところでもあり、しいては老化を早める要因を作るところでもある。

「何かを与えれば、その代償として何かを提供しなければならない」村上春樹氏の著書の中にこれを見つけた時、宝物を探し当てたような感動を覚えた。作家の阿川佐和子氏と分子生物学者の福岡伸一氏の対談の中で、この人の小説は宝石箱のように魅惑的な言葉がちりばめられている、と言っていた。

鼻が大きいのと嗅覚が鋭いのは関係すると個人的には信じている。

科学的に云えば、「犬のきもち」の中に書かれているように、鼻の奥にある「嗅上皮」というにおいをキャッチする部分が広いから。人のこれが面積にすると3~4㎠であるのに対して犬は大きさが大小さまざまであることを鑑みて18~150㎠と、圧倒的に広い。

脳全体の容量を比較すれば人のほうが遥かに大きいのにこの差は何よ?という話になる。

この差によって、動物の汗などに含まれる酢酸を人の1億倍も嗅ぎ分けることが出来るという。人が臭いと感じる1億倍臭さを感じるわけではなく、人のわかる1億分の1の微細な臭いを感知できる事らしい。何も偶然にこうなったのではなく、嗅覚の鋭さを武器にして種族の保存を図ってきた結果がこうした能力を生み出した。使って使いまくってやっと手に入れた能力である。

その産物として、でっかくて目よりもずっと前に突き出した鼻を手に入れた。

私はそう考える。「形には意味がある」

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