さくら4

昨日のことだが私はさくらにひどく腹を立ててしまった。夕方の散歩の時のことだった。いつも通り家を出たところで近所の犬連れとばったり合ってしまった。さくらは興奮するとリードを噛む癖がある。これは出だしに限ったことで、そこを上手く通過するとあとは難なく行けるのだが、ワンコ同士の近距離でのご対面はめったにない心ときめく瞬間であり、否が応でもテンションは上がる。すると、わかってはいてもついつい悪い癖が出る。思いっきり布製のリードを何度も噛んでしまった。「やめろ!」という忠告を無視して。無視というよりもいったんスイッチが入ってしまえばそうそうブレーキは作動しない。

こちらも出かける前にさんざん「早く行こう!」のワンワンコールをさんざん聞かされてちょっとイラついていたのと、数千円したものだったので噛まれるのが惜しい気がして、つい足がさくらの顔に向けて出てしまった。あくまでも静止させるつもりで出た足であった。

しかし、これを見ていた妻が「なんでさくらを蹴るの」と、暴力を糾弾する口調で言う。これはめっぽう鋭いもので、胸に矢を差された感じがした。「お前は那須与一か?」と言いたくなるぐらいに正確無比にピンポイントで飛んできた。当たり所が悪くて、踝は痛いは胸も痛いはで、平家の落人さながら散歩に繰り出すことになった。

当然のごとく面白くない、そこでさくらに「おまえのせいで俺が怒られてしまったじゃないか」と文句を言った。この何となく重い波動がリードを通してさくらに伝わるのか、首筋が緊張しているのが判る。

犬は瞬時にそれを感じると不安な気持ちが生じたのであろう、道端の草をクンクンしだした。最初はそれほどでもなかったが、こちらにそれを許容する態度がないことに気づくと一層強くやりだした。急にダッシュしたりターンしたりしながらクンクン、何かに取りつかれたかのように繰り返した。俺のせいだと分かりながらも我慢が利かず制止させようとリードを強く引く。完全に力づくで抑え込むような態度をとってしまった。

私の完敗、我に返って怯えているサクラをなだめようとしたが容易にそれを受け入れてくれるはずもなく、気まずい空気を放ちながら家に帰ってきた。

戻ってきた途端に水をがぶがぶ飲みだした。よほど緊張していたのであろう。散歩の途中でイヌ用の水筒から水を差しだしても一切口をつけなかったのだから、よっぽど怖かったのであろう。気が抜けたとたんに喉の渇きが出たことが飲む様子でわかった。

謝罪のしるしに体を撫でようとしても、完全に拒否するわけではないが近づいてこない。これにはちょっと凹んだ。

夜十時ぐらいにさくらがゲージの中で動く音がしたので、近づいて行くとチラッとこちらを暗闇の中で見ていた。手を差し出すと指先をペロッと軽く舐めてくれた。これは了解のサイン、もう水に流すよ、というさくらの流儀である。

そして今朝、ゲージにさくらの様子を見に行くといつもと変わらない様子でこちらを見てくれた。

ナデナデすると体をすり寄せてくる、そして撫でる手をカミカミする。これもいつものパターンで次第に強くなり「痛い」というまでやり続ける。

「だからもう少し優しくしろ」と犬に向かって本気で言うと「何か問題でもある?」という表情をする。これも日常的なやり取り。

あぁこれで一安心、根に持たない気の良い奴、こいつが家に来てくれて本当に有り難い。

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